01.
ゆっくりとさりげなく始まるテーマ。だがそれは変奏の度に変貌を遂げてゆく。全体にはテンポは次第に早くもなり、時に激しくもなるのだが、その間「ピアノにこんな音色があったのか」と思わせるような和音の響きがあったり、当然緩急の変化があったりする。何度聴いてもつい引き込まれてゆく演奏。最終変奏では例のトルコの軍楽隊のリズムをはっきりと提示して二楽章、三楽章につなぐ。これはもちろん11番のイ長調についてだが、他の曲も同じ。15番ハ長調は練習曲としても誰にでも知られている曲だが、これこそグルダの真骨頂。ジャズをも手がけた彼の面目躍如。即興的な飾りを効果的に多用していながら、この曲から逸脱するどころか最後になれば見事にこれを決めている。あまりに自在なピアニズムに参りました、とでも言うしかない。硬質の音色とも相俟って宝物のような一枚になっている。
02.
モーツアルトのピアノソナタは1993年に一流の医学雑誌"Nature"に掲載されました。 米国ウィスコンシン大学のラウシャー博士らが、モーツァルト のソナタ曲を10分間学生に聴かせる実験を行った。すると、 空間認識の能力が上がり、抽象的な思考能力が高まり、知能指数(IQ) が上昇しました。 この発見が、モーツアルトのブームを巻き起し胎児への情操 教育や幼児への教育効果に応用されたり、公立保育園に週1回クラ シック音楽を流すように義務づけた米国の州まで現れたのです。ただこの事実を度外視してもこのピアノ・ソナタ第11番第1楽章は 最高です。 なんでこんなに美しくて切ないのでしょうか?涙が出そうになります。
03.
グルダは、ちょっと不思議なピアニストです。16歳でジュネーブ国際コンクールに優勝し、翌年から国際舞台で活動を始め、スコダやデムスとともに「ウィーンの三羽ガラス」と呼ばれるようになり、やがては天才ピアニストの仲間入りをしました。しかし、これ見よがしの超絶技巧の演奏を好むわけでもなく、モーツァルトでもベートーヴェンでも、さらっと弾くだけだそうですし、あげくにはジャズに凝ったりして、なかなか一筋縄では捕らえられないピアニストです。 こういう時は、一切の雑音を排して、靜かに演奏を聴いてみるのがいちばんです。グルダの演奏で、素人でもわかる特徴は、面白くて退屈しないということです。他の演奏家で聴いて退屈する場合でも、グルダで聴き直すと退屈せずに聴けます。リズムの取り方に特徴がありそうですが、なにか、内発的なリズムにまかせて演奏しているようにしか思えません。あと、音の出し方についても、ホロヴィッツやミケランジェリのようなこだわりは感じられません。と言っても、グルダの音がきたないというのではありません。むしろ、きれいな音を出しているんですが、もともと、使用ピアノがベーゼンドルファーなので、高音がきらびやかなのはピアノの属性によるものだと思います。 ともあれ、あれこれ考えても、素人には分からないことだらけなんですが、耳に心地よい魅力満点の演奏だということだけは疑いありません。このアルバムにしても、本当に楽しそうに弾いていますし、名演奏だと思います。どんな人にもお勧めできる演奏ですが、特に、クラシック音楽を長時間聴き続けるのが苦手な人に聴いてもらいたい演奏です。
04.
このディスクでグルダマニアになりました。グルダを全て買い漁りましたが本作がベスト。マジックです。パフォーマンスの有様が目に浮かぶような表情のある演奏。紡がれるシークエンスに耽溺したい、そんな一枚です。
05.
とにかく面白くて何度も聞いてしまう演奏です。特にトルコ行進曲・第一楽章のバリエーションでの遊びが最高です。遊んでいてもモーツァルトの美しさ・繊細さ・悲しさ・楽しさをより鮮明に表現してしまうところに天才の凄さを感じますね。グルダという超一流の料理人が素材をぎりぎりまで見切って調理したというところでしょうか。内田光子のようにきっちりと精緻に弾きこなしたものと聞き比べると一層楽しいです。この名演でこの値段はお買い得です。
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